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故・武藤清栄会長を偲んで「死と再生をつないでいく悲しみ」 - 悩み相談と心の対話の場所 | NPO法人東京メンタルヘルス・スクエア

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故・武藤清栄会長を偲んで「死と再生をつないでいく悲しみ」

カテゴリ: 生命(いのち) 作成日:2025年05月27日(火)

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◆「青春が終わった」
故・武藤清栄会長のお通夜・告別式に参列し,そのとき,自分の心に合う言葉がそれだった。
思い返すと,2001年春,カウンセラーになりたいというだけで,若者の特権といってもいいような根拠のない自信・うぬぼれの中にあった私に声をかけてくださり,この道に招き入れてくださったのは所長:武藤清栄でした。

当時日本で始まったばかりのオンラインカウンセラー養成講座の懇親会の場で,見ず知らずの私に「東京メンタルヘルスに来てみない?」などと優しい声をかけてくださいました。

「青春が終わった」と思えたということは,所長(*1)に導かれ東京メンタルヘルスで生きながらえてきた四半世紀が私にとっては,熱い青春のように感じられていたということなのでしょう。それだけ楽しく,輝いていて,もちろん艱難辛苦(かんなんしんく)もあってのことですが,それらをひっくるめて,楽しかった。そう思えた私の東京メンタルヘルスでの所長と過ごせた職業生活は,幸せだったということは間違いありません。所長には感謝しかない。

 

◆ どうしてこんなにもわかりやすいのだろう?
所長のことは,入る前から,その著作等を通して活躍されていることは知っていました。印象は,【どうしてこんなにもわかりやすい文章をかけるのだろう?】という畏敬の念でしたが,その思いは今もずっと変わりません。所長には,私が書いた文章を読んでいただき,添削していただいたり,感想をいただいたりしていましたが,これはまぎれもなく私の貴重な体験であり,宝です。


そうして私なりには,所長のようにと常に憧れ,書き続けているわけですが,到底所長のようにはなれずじまい。あのような天性のといってもいいようなわかりやすく,興味深く,かつためになる文章の足元にも及びません。


それでも,私が安心したのは,あのような文章が所長の中からすらすらと出てきているわけではなく,所長は文章を何度も何度も書き直して,そうして書き上げた文章が記事となり,本になっていたということを知ったことです。手塩をかけて文章をつむぎだし続けていた所長の懸命な姿勢を知り,そこは同じ人間なんだと思えて,自分も,所長にはほど遠い自分も,何度も何度も文章を書き直し続けています。

 

 

◆ 別れは小さな死
そんな私が書いた文章に「別れは小さな死」というのがあります。この言葉はある国のことわざですが,それについて書いたものです。

 

「「別れは小さな死」という言葉、これはフランスにあることわざです。

大切な人、可愛いペットなど愛するものとの別れは、そのかけがえのない関係の中で一緒に築いてきた自分自身の一部も死ぬ、さながら自分自身の小さな死のような体験だという意味です。

そういった意味では、別れはとてもつらい体験です。」

 

所長のお通夜・告別式では,私たちは,このとてもつらい別れの体験を共有しました。

 

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<故・武藤清栄氏と筆者。2020年頃、弊社内所長の相談室にて>

 

◆ かけがえのないピース
私の名前にある「新」の漢字の成り立ちは,私なりの意訳が入りますが,立つ木に斧を入れて,新しいものを産み出す,という字です。「新」の漢字の左側が上から「立つ木」と書き,右側は斧を意味します。立つ木に斧を入れて切り出したものは材木となり家や家具に生まれ変わることもあれば,薪(まき、燃料)となり火という大きなエネルギーを産み出します。立つ木に斧を入れることは木にとっては「死」でもありますが,実はこの死から新たな様々なものが産まれるということを,「新」という字は表しているのです。


その死と再生の過程で避けては通れないのが悲しみですが,この悲しみがあるからこそ,私たちは再生して生きていけるのでしょう。そういった意味では,死と再生をつないでいるかけがえのないピースが「悲しみ」なのでしょうか。

 

「君のおかげで 私の心に愛ができた
なくなったのは君で 愛ではない
さようならしたのは 君だけで
その愛は ずっと私からなくならない」

 

これは、タイのウィスット・ポンニミットさんが描いている「マムアンちゃん」(*2)という4コマ漫画での、主人公マムアンちゃんの心の声です。


所長は今日,火葬場にて荼毘(だび)にふされ,その肉体は遺骨を残し,燃えて天に召されました。所長と過ごしたそのかけがえのない体験は何一つ私の中から消えることはなく,ずっと生き続け、そして新たな何かもまた生み出し続けていってくれることでしょう。

 

所長の告別式の日,2025年5月19日筆
東京メンタルヘルス・スクエア 副理事長 新行内勝善

 

*1.文中では所長としていますが、故・武藤清栄氏は、特定非営利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエアの会長です。生前、東京メンタルヘルスにて私たちがそう呼ばせていただいたままに、親しみをもって「所長」と書いています。

*2.引用文献:「ビッグイシュー日本版」301号(2016/12/15)より